「夜歩く」(横溝正史)

金田一耕助の事件簿012

溢れ出る横溝の創作意欲

「夜歩く」(横溝正史)角川文庫

「夜歩く」角川文庫 令和三年復刻版表紙

探偵作家・屋代が
招待された古神家には、
好色の後家・お柳、
知的障害のある四方太、
佝僂の守衛、
夢遊病の美女・八千代、
酒乱の仙石鉄之進がいて、
お互いに憎しみ合っていた。
佝僂の画家・蜂屋が
加わったある夜、
恐ろしい殺人が…。

横溝正史金田一耕助シリーズ
第5作(長篇としては第3作)である
本作品、先日取り上げた「迷路の花嫁」
同様、やや趣を異にしています。

【事件簿File-012「夜歩く」】
〔事件発生〕
昭和25年(東京・小金井、岡山・鬼首村)
〔依頼人〕
仙石鉄之進
…古神家の家老の子孫。現在の
 古神家の主人・お柳と愛人関係あり。
〔捜査関係者〕
沢田警視
…警視庁警視。東京での事件を担当。
磯川警部…岡山県警警部。
〔事件関係者〕
古神お柳
…現在古神家の主人。
 四十を超えているが、好色。
古神守衛
…古神家先妻の息子。佝僂。
 八千代に好意を寄せる。
古神八千代
…お柳の娘。夢遊病者。
 性格は破天荒。美女。
古神四方太
…守衛の叔父。知的障碍を持つ。
仙石直記
…鉄之進の息子。
 八千代に好意を寄せる。
 女漁りが得意。
屋代寅太
…語り手。三流探偵小説家。
 直紀がパトロンとなっている。
蜂屋小市
…佝僂の新進画家。美男子。
 八千代に好意を寄せる。
お喜多…守衛の乳母。
妙照…足長村海勝院の尼。

本作品の味わいどころ①
後の長篇の片鱗が見える

「本陣殺人事件」「獄門島」と立てつづけに
金田一ものを書き上げた
横溝が放った本作品は、
横溝ミステリの面白さが
凝縮されています。
魑魅魍魎が蠢くような旧家・古神家は、
後の「犬神家の一族」を彷彿とさせます
(名前からして雰囲気が似ている)。
その古神家の本拠地・鬼首村は、
後の「悪魔の手毬唄」の地名と同一です。
なんと岡山県には「鬼首村」という
恐ろしい地名が二つある!
(こちらは鳥取県境付近、
「悪魔の手毬唄」の鬼首村は
兵庫県境付近、実際には岡山県に
そのような地名はありません。
ちなみに「鬼首村」が実在したのは
宮城県)。
その古神家は、
かつて農民4人を処刑したため、
「四人衆様」の祟りを
恐れているという設定。
これは数字が倍加され、
後の「八つ墓村」
つながっているのでしょう。
二度までも登場する
「首なし死体」などは、横溝作品には
多数見られるトリックです。
このように本作品は、
後の長篇の片鱗が見られる、
横溝の創作意欲の溢れ出たような
作品となっているのです。

本作品の味わいどころ②
脇役に徹する金田一耕助

それでいながら、
肝腎の金田一耕助は
脇役に徹しています。
なぜなら語り手は屋代寅太。
最後の最後まで
屋代目線で事件が描かれ、
金田一の登場は後半、
舞台を岡山県に移して以降となります。

本作品の味わいどころ③
衝撃的な大どんでん返し

実はそれが最後の大どんでん返しへと
つながっていきます。
この衝撃度は
非常に大きなものがあります。
40年以上前に初読した際は、
腰を抜かしそうになりました。
金田一耕助の登場場面が少ないためか、
タイトルが地味であるためか、
これまで映像化される機会の少ない
(TVドラマ2作のみ)作品なのですが、
私にとっては横溝ミステリの中でも
最上位に推したい作品の一つです。

金田一シリーズの中でも
異色の作品です。
現代ミステリに飽きてしまったあなた、
横溝作品を初めて読むなら、
本作品からお薦めします。

(2022.12.9)

〔追記〕
こちらもご覧下さい。

墓村幽の味わえ!横溝正史ミステリー

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(2023.3.9)

昭和時代の表紙(新)
昭和時代の表紙(旧)

〔関連記事:金田一耕助の事件簿〕

残念すぎる販売姿勢

上に記したように、横溝作品の中でも
最高の出来映えの本作品なのですが、
出版社の販売姿勢は最低といえます。
本作品は絶版することなく、
例の漢字一文字装丁の表紙で
店頭に並んでいた作品ですが、昨年末、
ある特定の書店において、
杉本一文装丁画表紙で
限定復刻
されました。
他の商品ならいざ知らず、
書籍の店舗限定販売とは
いったいどういうことなのでしょうか。
出版物をあまねく行き渡らせるのが
出版社の責務であるはずです。
この出版社の文庫本の最終ページには、
「多くのひとびとに提供しようとする」
と書かれてあります。
それはポーズだけなのでしょうか。
それとも書籍とは
「テキスト」だけであり、
表紙は書籍の一部とは
見なしていないのでしょうか。
私などは本書について
「昭和旧版」「昭和新版」そして
「横溝生誕110年記念復刻版」と
3冊所有した上で、
このめでたい機会にさらに一冊
購入したいと思っていたのですが、
近くにその書店はありません。
入手できないまま終わりました。
横溝生誕120年記念を、
より多くの読者と分かち合おうとしない
出版社の姿勢は残念でなりません。

(2022.12.9)

StockSnapによるPixabayからの画像

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